Miranda: 裸でも過ごせるビーチで、オレンジ色のポーチを取り違えた私。転がり出したゴムのアヒルを追いかけ、彼と浅瀬へ駆け出すことに。
「非常食のビスケットまで同じじゃなければ、それは僕のだよ」
砂の上からオレンジ色の防水ポーチを拾い上げた私に、彼が言った。私のタオルは彼のすぐ隣。どうやら私は、オレンジ色のものは全部自分の持ち物だと思い込んでいたらしい。外ポケットを確かめると、ロッカー用のコインではなく、個包装のビスケットが出てきたので返した。ところが、まったく同じ私のポーチは、すでに彼の手首にぶら下がっていた。
私の視線を追った彼の笑顔から、さっきまでの自信が少し消えた。
「一応、言い訳させてもらうと、君のが僕のバッグの隣にあったんだ」
そこは、裸で過ごすことが正式に認められているビーチの一角だった。裸でいることには何の抵抗もないのに、自分の荷物は見分けられないらしい。彼から私のポーチを受け取り、彼のポーチを返す。それで終わるはずだった。なのに私は、自分のポーチのほうが非常用の備えは充実している、と言ってしまった。
開けて見せた中身は、ロッカー用のコインと、取り外しのできるクリップでキーリングにつけた小さなゴムのアヒル。彼は距離を保ったまま中をのぞき、それからまっすぐ私を見て笑った。こんなやり取りにしては、その笑顔が妙にうれしかった。
「それで助けを呼べるの?」
私はアヒルをクリップから外してポーチの上に載せ、荷物の見張り役だけれど、実際には何の役にも立たないのだと説明した。
彼がよく見ようと手のひらを差し出したので、私はアヒルをそのまま渡せばいいものを、ポーチごと彼のほうへ傾けた。アヒルが滑り、つかもうと伸ばした手首が当たって、ポーチが横倒しになった。コインは無事にタオルの上へ。アヒルは硬く締まった砂の斜面を跳ねながら、水辺へ転がっていった。私たちは同時に振り向いて走り出し、防水のはずの荷物は、これ以上ないほど乾いた安全な場所に置き去りになった。
先に浅瀬へ着いた私は、アヒルを挟むように両足を踏ん張った。ところがアヒルは、さっそくその間をぷかぷかとすり抜けた。私が向きを変えたところへ彼が左から回り込み、肩と肩がぶつかって、派手な水しぶきが扇のように広がった。どちらも転ばずに済んだけれど、すくい上げようとした私の手が、アヒルを彼のほうへ押し流してしまった。彼は両手で受け止め、高く掲げた。その隣でずぶ濡れになった私は、彼しか見ていないのに、ぱちんと一度だけ拍手した。
「避難完了」
そう言って、彼は私の手のひらにアヒルを載せた。私は、アヒルが申請したのは上陸休暇であって、大がかりな緊急出動じゃない、と言った。彼は笑ってから私の肩に目をやり、ぶつかったところは痛くないかと尋ねた。痛みはなかった。この騒ぎを距離を詰める口実にせず、まず気遣ってくれたことがうれしかった。一緒に戻ろうと誘うと、彼は先を急がず、私の歩調に合わせてくれた。
タオルに戻ると、私はアヒルを鍵につなぎ直し、妙に真剣な顔で留め具を引っ張って確かめた。それぞれのタオルに座り、ビーチバッグがいかに肝心なところで役に立たないかを話した。意外にも、それがなかなかいい感じに距離を縮めてくれた。彼が予備のビスケットを勧めてくれたので受け取り、タオルを少しだけ彼のほうへ寄せた。間には、窮屈にならないくらいの砂地を残して。オレンジ色のポーチは左右に分け、厳重な監視下に置いた。
その後、帰り支度をしていると、彼が自分のタオルの下にできた浅いくぼみから何かを拾い上げた。アヒルのクリップについていた、小さなプラスチックのキャップだった。自慢の防犯体制を実演しているときに落としたらしい。彼はそれを私の手に載せて言った。
「見張り番が帽子を忘れていったよ」
キャップをクリップにはめ直しながら、明日もこの辺りに来るのかと尋ねると、返事は迷いのない「もちろん」だった。そこで私はアヒルを掲げ、上陸休暇は許可するけれど、ビスケットを持ってくるのが条件だと彼に伝えた。
砂の上からオレンジ色の防水ポーチを拾い上げた私に、彼が言った。私のタオルは彼のすぐ隣。どうやら私は、オレンジ色のものは全部自分の持ち物だと思い込んでいたらしい。外ポケットを確かめると、ロッカー用のコインではなく、個包装のビスケットが出てきたので返した。ところが、まったく同じ私のポーチは、すでに彼の手首にぶら下がっていた。
私の視線を追った彼の笑顔から、さっきまでの自信が少し消えた。
「一応、言い訳させてもらうと、君のが僕のバッグの隣にあったんだ」
そこは、裸で過ごすことが正式に認められているビーチの一角だった。裸でいることには何の抵抗もないのに、自分の荷物は見分けられないらしい。彼から私のポーチを受け取り、彼のポーチを返す。それで終わるはずだった。なのに私は、自分のポーチのほうが非常用の備えは充実している、と言ってしまった。
開けて見せた中身は、ロッカー用のコインと、取り外しのできるクリップでキーリングにつけた小さなゴムのアヒル。彼は距離を保ったまま中をのぞき、それからまっすぐ私を見て笑った。こんなやり取りにしては、その笑顔が妙にうれしかった。
「それで助けを呼べるの?」
私はアヒルをクリップから外してポーチの上に載せ、荷物の見張り役だけれど、実際には何の役にも立たないのだと説明した。
彼がよく見ようと手のひらを差し出したので、私はアヒルをそのまま渡せばいいものを、ポーチごと彼のほうへ傾けた。アヒルが滑り、つかもうと伸ばした手首が当たって、ポーチが横倒しになった。コインは無事にタオルの上へ。アヒルは硬く締まった砂の斜面を跳ねながら、水辺へ転がっていった。私たちは同時に振り向いて走り出し、防水のはずの荷物は、これ以上ないほど乾いた安全な場所に置き去りになった。
先に浅瀬へ着いた私は、アヒルを挟むように両足を踏ん張った。ところがアヒルは、さっそくその間をぷかぷかとすり抜けた。私が向きを変えたところへ彼が左から回り込み、肩と肩がぶつかって、派手な水しぶきが扇のように広がった。どちらも転ばずに済んだけれど、すくい上げようとした私の手が、アヒルを彼のほうへ押し流してしまった。彼は両手で受け止め、高く掲げた。その隣でずぶ濡れになった私は、彼しか見ていないのに、ぱちんと一度だけ拍手した。
「避難完了」
そう言って、彼は私の手のひらにアヒルを載せた。私は、アヒルが申請したのは上陸休暇であって、大がかりな緊急出動じゃない、と言った。彼は笑ってから私の肩に目をやり、ぶつかったところは痛くないかと尋ねた。痛みはなかった。この騒ぎを距離を詰める口実にせず、まず気遣ってくれたことがうれしかった。一緒に戻ろうと誘うと、彼は先を急がず、私の歩調に合わせてくれた。
タオルに戻ると、私はアヒルを鍵につなぎ直し、妙に真剣な顔で留め具を引っ張って確かめた。それぞれのタオルに座り、ビーチバッグがいかに肝心なところで役に立たないかを話した。意外にも、それがなかなかいい感じに距離を縮めてくれた。彼が予備のビスケットを勧めてくれたので受け取り、タオルを少しだけ彼のほうへ寄せた。間には、窮屈にならないくらいの砂地を残して。オレンジ色のポーチは左右に分け、厳重な監視下に置いた。
その後、帰り支度をしていると、彼が自分のタオルの下にできた浅いくぼみから何かを拾い上げた。アヒルのクリップについていた、小さなプラスチックのキャップだった。自慢の防犯体制を実演しているときに落としたらしい。彼はそれを私の手に載せて言った。
「見張り番が帽子を忘れていったよ」
キャップをクリップにはめ直しながら、明日もこの辺りに来るのかと尋ねると、返事は迷いのない「もちろん」だった。そこで私はアヒルを掲げ、上陸休暇は許可するけれど、ビスケットを持ってくるのが条件だと彼に伝えた。